印刷メディアの2つの役割
デジタル技術の発展に伴いメディアのかたちも多種多様化している中で、印刷メディアへの期待度は縮小していくと考えられていますが、使い方によってはむしろその存在が見直されているようです。これには、印刷メディアが持つ2つの重要な役割が関係しているからと言えます。
情報のメディア
1つは情報を記録し、届け、保管する「情報のメディア」としての役割です。印刷メディアは情報が一度印刷されると修正が難しいため、誤字脱字や情報の誤りがないよう編集者による厳格な校閲を経て発行されており、情報に対し高い“信頼性”があります。この信頼性はもちろんのこと、新聞・雑誌のように“鮮度”を同時に追求するもの、マニュアルやテキストのように“わかりやすさ”を付加するものなど、用途に応じた特徴的な機能があります。
感情のメディア
もう1つ、感情や情緒を表現するという「感情のメディア」としての役割もあります。写真やイラスト、書体やレイアウトなどの視覚要素に加え、触覚、嗅覚、聴覚といった“五感”に訴えかけることができることはデジタルメディアにはない物理的な形があるからこその特徴です。上質な紙質や美しい装丁は手に取る人の心に響き、インクの香りやページをめくる音は、読書体験をより豊かなものにするでしょう。
役割に応じた特徴
情報伝達:複雑で専門的な内容理解に有効
デジタルメディアでは情報を発信する側にとって容易に情報を更新できるメリットがある反面、受け取る側は情報が次々と新しく更新されるため情報への集中力が散漫になりがちです。
一方、印刷メディアは一度手に取ればじっくりと内容を読み込むことができます。整理された情報量と表現方法、見出しの工夫や見やすいレイアウトにより、読み手に内容を理解しやすく導くことができます。複雑な内容や専門的な知識を伝えるには、印刷メディアは有効な手段と言えるでしょう。
また、一定の画面領域にしか表示されないデジタルメディアと違い、印刷メディアは全体ボリュームを把握できることから、情報の重みづけができます。その点もまた読み手にとって理解を手助けすることにつながります。
情報メディアに期待されること
- 情報の機能性:内容の正確性、即時性、構成・分類のわかりやすさ、効率的な紙面レイアウトなど
- 物理的な扱いやすさ:手に持ちやすい本のサイズ・厚み(ページ数)、書き込みしやすい紙質など
感情表現:活字の温もりと五感に響く訴求力
情報を伝える方法として、例えばメールと紙のDMを比較した場合、メールボックス内のメールは他との差別化が難しく、埋もれてしまいかねません。
一方の紙のDMは見た目だけで差別化ができ、思わず手に取ってみたくなる、捨てずに取っておきたくなる、そんな気にさせることも可能です。そのために巧みに五感に訴える仕掛けを考えることはデザイナーの妙です。
これは、印刷メディアが単に情報を正確に伝えるだけでなく、読み手にイメージを想像させる役割があり、読み手自身もそれを楽しむ資質を持っているからにほかなりません。
また、その存在感ゆえに、読み手に対し意図せず目に入ってくる情報によって新たな発見や気づきを与える効果にも期待できます。
感情メディアに期待されること
- 読み手との感情的なつながり:五感による印象的で記憶に残る体験の提供
- 情報伝達の効果向上:ストーリー性あるコンテンツや創造的な視覚表現による読み手の興味喚起と効果的な情報伝達
デジタル時代だからこそ輝く個性
情報伝達の速度や利便性においては、デジタルメディアにメリットがあります。映像や音声を使うデジタルメディアにしかできない表現手法もあります。
しかし、印刷メディアは情報伝達と感情表現を両立させ、深い理解と共感を得られるコミュニケーション手段として普遍的な魅力があります。デジタルが注目されているからこそ、印刷メディアの持つ温もりや五感に訴える力はより一層貴重なものと言えます。
デジタルメディアと印刷メディアを効果的に組み合わせることで相互補完の関係ができ、より豊かな情報発信が可能となるでしょう。